去年のNO

"NO" 

 

去年の冬、どこかにとりあえずいきたくて

アラスカというものをとにかく見てみたくて

他の国を飛び回る仲間たちをみて焦って

 

めちゃくちゃに

アラスカネイティブの友人たちに

がむしゃらにメールを送ったことがあった。

 

「ねえこんにちは。あのさ、あなたの村に行かせてほしいんだけど!」

 

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スティーブ・ジョブズ

Stay Hungry!!!

の言葉だけが胸に燃えていて

とにかく必死にメールを打っていた。

 

でも、

返ってきた返事はみんな

遠回しに優しく、しかしはっきりした

Noだった。

なんでだろう。

星野道夫はすんなりOKをもらったのに。

ティーブの名言を実行したつもりなのに。

 

思いのままに書いたメールの文章が

恥ずかしくなるほど

きっぱりした彼らの No に

あの時は

落ち込んだ。

 

でもそれから

お皿を洗いながらゆっくり考えたら

そうか

失礼なことだったんだと

ふっと気づいた。

 

ステイハングリーなんてこっちの一方的な熱で

異文化理解なんていうのはこっちの一方的なお門違いで

なんでもいいからやらせてほしいというのは

こっちの一方的なわがままだったんだ。

 

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自分のやりたいことをやるために

人の目なんて気にするな。

自分を貫け!

そんな言葉が私は好きだった。

 

今でも

それは大切な言葉で

その言葉が

世の中の偉大な人物をたくさん後押ししたのだろうと

それは思っている。

 

でも

私の冷たい画面の中の NO のこの文字は

私が

靴紐を結びもせずに

彼らの世界に踏み込もうとしていた無礼さと

子どもらしさと

そして必死さを

静かに語っていた。

 

アラスカ先住民の人々の

あの歌い方を

あの空の見つめ方を

あの微笑み方を

 

知りたいと思っていたはずだけど

実はそれは

ただ自分を満足させたいだけだったと

彼らは見透かしていたのかもしれない。

 

ああ

別の時の流れを生きる

お前の隣の者の物語。

知りたいのならば

待たなければいけないのだよ。

 

そう

諭されている気がした。

 

靴紐をしっかり結んで

しゃんと前を向きなさい。

嘘のない真っ直ぐな目で

前を向きなさい。

それから

相手がお前を見つめるまで

待たなければいけない時が

この世にはあるんだよと。

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はるか向こうに、北米最高峰

 

そうか。

別の世界を生きてきた

隣の君をわかるには

いや、その世界に入れてもらうには

待たなくちゃいけなかったのか。

 

お皿についた泡が

すっかり消えた頃

私はそう気づいた。

 

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そして今日。

普段は

おはようどころか

目を合わせてくれるかどうかも微妙。

私のことが

見えてるんだかどうかすらわからなかった

アラスカネイティブの仲間たちが

 

はるか向こうにのぞむデナリを前に

海のような底なしの空と

夏のような日差しの下で

力いっぱい歌いながら

私の横で

アラスカネイティブダンスを踊っていた。

 

ここを去る前に

もう一度だけ踊りたいからと

真っ直ぐな声に集まってくれたのだ。

 

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アザラシ漁の歌を

吹き抜ける風に消されぬように歌う彼らの後ろに

私が知りたくてたまらなかった

何万年の歴史が

そっと顔をのぞかせた気がした。

 

そして

あの独特の訛りと

あのシャイでたまらない目を私に向けながら

静かにつぶやいた。

 

"Alaska is always a home for you." 

 

アラスカのツンドラを駆け抜ける風に

持っていかれそうな

たった一言。

 

でもこの一言を聞きたくて

私は何ヶ月も待っていた気がする。

 

"You are our sister to us all..."

 

目すら合わせたことなかった彼が

ちらっと私をみてはにかんで言ったこの一言は

多分一生

静かに私の心の中で

燃えているんだろう。

 

去年のNOが

アラスカ山脈のはるか向こう側へ

走り去っていくのが

一瞬見えた気がした。

 

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Quyana 

 

追伸*

その後

キャンパスの森の中に

鳥たちが帰ってきた話になった。

 

へえ、

写真撮りに行こうかな

なんて

スマホを取り出した私の横で

 

「あいつら、うまいよなあ...」

 

と緩んだ顔を見て

私とかれらの中にある

まだまだ大きな流れの違いを感じた。

 

そしてなんだか

可笑しいやらなんやらで

吹き出してしまう。

 

かれらにとってあの鳥たちは

撃ちとってスープに入れる

絶品のご馳走なのだ。