アラスカ ユーコン川のほとりで教えてくれたこと   エバリーンという女性


   ”Smile. Smile. That helps”


 どんなに辛いことがあっても、笑うのよ。
それは、悲しみに溢れた心を照らす、太陽になるから。

 

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笑顔の向こうを、歴史が駆けてゆく

 


世界の始まりが

そのまま時を止めたかのような光景が

小さなプロペラ機の向こうに広がっていた。

 

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人類最後の未踏の地、アラスカ。

 

人間を拒むことも

受け入れることもせず

ただそこに在り続ける偉大な山々。

 

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世界の始まり。

アラスカの小さな町

フェアバンクスから

木の葉のように舞い上がったプロペラ機で

辿り着いたのは

Ruby

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google mapより

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手紙に新聞、そして食料と人を乗せて。

 

かつて西洋の人々が

一攫千金を夢見て開拓したものの

今はアラスカ先住民である アサバスカン族の子孫たちが

たった100人ほど暮らしている

まさに世界の終着点のような村だ。

 

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そこには、氷に覆われた大河が。

-30℃という

肺も脳みそも凍りつくような

隔絶された世界で出逢った人々は

どこか遠い歴史の一箇所で

同じ祖先を思わせる

モンゴロイド系の顔をしている。

 

人生とは

大河のようなものだ。

しかし

どんな川の流れのいたずらなのだろう。

 

この世界の果てのような

闇と雪、そして底なしの大地に覆われた場所で

迎え入れてくれたのは

EvelynとEdという老夫婦だった。

 

白い肌を持ちながら

この村の長のような地位を持ち

マリファナとエイリアンをこよなく愛するエド

 

ネイティブアメリカンの血を継き

男勝りのクレイジーさとともに

ビーズ一粒一粒を

美しい刺繍に変えてしまう繊細な手を持ったエバリーン。

 

東京で生まれ育った日本人と

この老夫妻が

ある大河の一点で混じり合った時

一体世界に向けて

何を叫べばいいのだろう?

 

 

夕闇の向こうに

あっという間に走り去ったある一晩だった。

 

エド

小さな薪ストーブの前で奏でる

不思議なまでに懐かしいハーモニカの音色を聴いていると

ほろりと出てきた言葉。

 

「ねえエバリーン。幸せってなんだと思う?」

 

横で刺繍をするエバリーンを

じっと見つめた。

 

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夕闇が迫る。

彼女は

ちょっと不思議そうな顔で

おかっぱ頭の日本人を見返す。

 

でも

その麻色の頰に

砂漠を生き抜いたネイティブアメリカンの偉大な笑みが

ゆっくりゆっくり浮かんだ。

 

その悪戯っぽい少女のような

ブラウンの大きな瞳をキラッとさせる。

 

そして

考えながら、やんわりと彼女は言った。

 

Happiness is not be given by somebody or something.

Happiness is what you generate.

Happiness is what you have already had within. 

幸せってのは

与えられるものじゃなくて、もう自分の中にあるものなんだよ。

ただ悲しみや苦しみに包まれて、

見えなくなってるだけで。

 

 

どこか遠くの世界を見つめながら

語ってくれた

エバリーンという、一本の大河の物語。

 

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アメリカ本土の

インディアン保護地区で生まれた彼女。

ネイティブアメリカンの女子として学んだ

手芸に料理、そして大地との生き方。


悲しい過去。

忘れられない苦しみ。
そして出会った夫エドとの人生の旅。


カナダとアラスカのハイウェイを、お腹に赤ちゃんを抱えながらヒッチハイクで旅し、見た数えきれない美しい自然のこと。

オンボロのトラックの旅。
警察から隠れながら、森の中で生んだ子どもの話。
インディアンである自分のアイデンティティ

クリスチャンと昔ながらの伝統のバランス。

血を流れる歴史と、瞳に宿る未来のこと。

悩んだ自分自身の存在意義。
自分を殺そうとした過去。
自分の中に潜む悪を殺そうとした過去。
それでも、消せないと悟った過去。
なぜなら、どの自分も、どの一瞬も自分だったから。

 


「どうして、私が苦しむの。
望んでも、許してもいない悲しみが私を支配するのはなぜなの。

そう苦しんだこともあったよ。
でも、悟ったの。幸せは、誰かに与えられるものじゃない。

自分自身に潜んでいるものだって。

だから、幸せになれないと思った時。思い出すの。

大事なのは、選択だってこと」

 

Choice is the only right given to us.

Every moment is made by your own choice.

私たちに与えられた唯一の権利は、選ぶ、ということ。

人生のどの瞬間も、

自分の選択によって創られるの。

 

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幸せになることも悲しくなることも

全てはあなたが選んでること。

 

いつの間にか、

エバリーンの大きな瞳には

涙が浮かんでいた。

 

そこには

ネイティブアメリカンとして生まれ

白人の社会で生き

アラスカ先住民の地に根を下ろした一人の女性の

壮大なドラマが一コマずつ

再生されているようだった。

 

エバリーンはこうも言った。

 

 

You cannot ignore your sadness. You shouldn’t. You recognize it, accept it,

and move on.

誰も悲しみを、無視することはできないの。

するべきではないんだよ。

だから悲しみを見つめて、受け入れて、そしてまた

歩いていけばいいの。

 


「世の中には、辛いこと、悲しいこと、たくさんある。

テレビを見れば、また耐えられないようなニュースが溢れてる。でも、全部に涙を流すこと、しなくてもいいんだよ。

Ok I’m done with it. もうたくさん!

そういって前に進んで行けばいいの。

それでも悲しくてたまらない時?

Smile. Smile. That helps. 笑って、笑うのよ。それでマシになってくから!」

 

彼女の声には何かが宿っているようだった。

彼女の生き様を語る

何かが。

 

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Forgive yourself.
People make mistakes. People make mistakes. But you have to make mistakes to grow…you know…so you have to forgive yourself.

もう一つ教えることがあるよ。

自分を赦しなさい。

人は間違いを犯すけど、それで育っていくものだから...。

だからね、自分を赦しなさい。

 

エバリーンはここまで語ると

こちらをまっすぐ見つめ、そして明日を夢見るように言った。

 

「ああ。若い時に知っていればよかったっていうことが、沢山ある!

みんな誰でもそう思うんだよ。でもね、過去を悔やんでも仕方ないの。あなたは前にしか進むことができないんだからね」

 


そして彼女は

ニッコリと笑う。

アラスカの冬の夜の、焚き火とマリファナ

ほろ苦い空気を思い切り吸い込んで。

 
どこか遠く、

地平線の向こうの見えざるものを見つめながら語ってくれた

彼女の人生の物語。

 

そして、その旅はまだ終わってないわ。という。

私の人生の冒険は、まだ終わってない。

これからもずっと

続いていくのだと。

 

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自分の歩いた土地を指すエバリーン



「あなたは愛されてる。幸せなんだよ。
ただ、気付かなくちゃ、自分で生み出さなきゃいけないの」



大きなくっきりした瞳に涙をためながら、
教えてくれた。命の旅。


20年間全く

会うことも話すこともなかった

世界の果てに生きる、一人の女性の人生の物語。

私の人生の大河に加わった、一本の不思議な流れ。

 

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二人の手には、大好きなマリファナ

 


マリファナをプカプカ吸って、夫婦仲良く咳き込んだり、吐いたり、楽しそうに笑い合ったり。

 

アラスカの夜は長い。

 

けれど二人の間に流れる大河は

静かに深く、そしてどこか切なさの混じる

あたたかな色をしていた。

 

せは与えられるものではない。
すでに持っていて、自分で気づいていくもの。

                                    Evelyn Sarten 

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