大河

「だからなあ俺はいうぜ。
人類は月に降り立ってねえんだよ!!!」


この人、やばい。

 

マリファナの緑がかった煙に包まれながら、

青い目をまん丸に開いて叫ぶ彼を見て、

真剣にそう思った。

 

 

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朝焼けを飛び越える。

 

五人乗りのプロペラ機で、

今まで人類が触れたことないんじゃないかと思うような、

何千もの山と大河を越え、

やってきたユーコン川のほとりの村、

リュービー。

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五人乗りのプロペラ機。前のおじいさんは余裕で新聞を読む。私はシートベルトが見つからなくて恐怖。


滑走路というより、

雪の斜面という言葉が正しい”空港”?に降り立った瞬間、

どれほど現代文明から時を遡ったのかと

深々唸ってしまった。
(私を下ろした瞬間飛び立つ小型機。

来る前のセキュリティはなんだったのか。)

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人類未踏の大河


水道がない暮らしというのはここまで大変なのか。


バケツのトイレ。


雪水を溶かしたお皿洗い。


−20度の外気の中で洗顔と歯磨き。


モップを洗った水で

ハンバーグ作りのために手を洗った時、

全ての戸惑いと恐れが消え去った。

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今と昔が混じる場所。

 

2週間、

ネイティブアメリカンのおばあさんと、

謎のおじいさん夫婦の仕事を手伝う代わりに、

無償で与えられた衣食住。

日が沈まない夏に狩った動物たちの肉とサーモン、

缶詰にした野菜と、

襲いかかってくる鶏の卵で生き延びる

”アラスカネイティブ”の暮らし。

 

何をとっても

東京という世界有数の大都市で育った私には

衝撃が大きすぎる。

 

のだけど、

この隣でプカプカ大麻を吸う(アラスカでは合法)

おじいさんほど衝撃的な生物に

出逢ったことがない。

 

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今まで、

早稲田大学という学びの場を通して、

たくましく生きる政治家や開発者の方々に、

ありがたくもたくさん出逢ってきた。

想像を超える挑戦をしてゆくかっこいい先輩や

学友にも多く巡り会えた。


でも、

この、

白髪と金髪の入り混じった、

シワの深い細い体の、

大きなブルーの瞳を金貨みたいに見開くおじいさん。


「No one would believe this...but I know what they don't know...」


と囁いて(これって全世界男性の共通語なのだろうか)、

アイスマンに出会った話。
巨人の墓。

政府が操る温暖化。

政治家の嘘。

ピラミッドとエイリアンの繋がり。

ダーウィンの進化論の赤っ恥。

それらを延々と私に語った挙句、

最後に月上陸は嘘だった!と叫ぶ。


その長い3時間半に及ぶ演説の中で、

私が発したのは”cool"
の一言だけ!!

彼に言わせてみれば


「I will tell you this...the truth is that the truth is stranger than the fiction
真実は逸話より奇妙なのだ」


らしい。

それをマリファナの煙の中で言われたら、

もう唸るしかできない。
(煙草は体に悪いと気づいて、

マリファナにシフトしたらしい。

なぜやめるという選択はなかったのか)


いつもの私なら、


この人、マジでやばいかもしれない。

って思って、逃げ出す計画を立てるかも。


でも、ユーコン川を渡り、

文明から隔絶された場所で

マリファナの香りを吸ったからなのか。


今、何か不思議な感覚でいっぱいなのだ。

 

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本当にやばいのか。
やばいのは彼なのか。
本当にまともじゃないのは、

私の方なのではないか。

 

教科書を信じるというか疑うこともなく、
えらい人々の話にまっすぐ耳を傾け、
人間はアウストラルピテクスから進化したのだと
そう思っている私の方が、

何かを忘れているのではないか。

そう思っているのだ。

 

彼はこうも言う。


「ネイティブの言い伝えを知ってるか。
白いバッファローワタリガラスが現れた時、

それは新しい世の始まりなんだ。
俺はこの間、そいつらを見たんだ...。
どういう意味かわかるか?
俺たちは今、とても特別な時代を生きてるんだ。
俺が生まれた時の30億っていう人口の2倍以上の人間が、

今地球にいるのはなんでだ?
わかるか?
みんな、戻ってきたんだ。
この特別な時代を見るために、戻ってきたんだ。
俺たちが忘れてしまった時間から、

戻ってきたんだよ...。」

 

彼の何か遠くを見つめる瞳を見た時に、

こう思ったのだ。


もしそんな特別な時代を

私たちが生きているのだとしたら。


なぜ
他の80億以上の人間ではなく、今、
このマリファナに包まれながら

未来を語る彼に出逢ったのか。


なぜ

1週間前まで聞いたこともなかった、

忘れ去られたような村の、

古ぼけたあったかい焚き火の前にいるのか。


なぜ

向こうの川ではなく、

この川の流れを泳いでいるのか。

 

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なぜか

全ての出来事に、

彼とその妻とサケのハンバーグを食べたという事実に、
ローズの香水ではなく

マリファナの香りに染まっているという事実に、
何か

途方も無いほど大きな意味がある気がしてならないのだ。

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ありきたりの言葉で言えば
当たり前だと思っていたことが、

根本から崩れ去っていく感覚。

どんな

世界の先端を歩く人の話を聞いても感じなかった、

人間の本質的な部分が変わってゆく感覚。


人生という大河に、

一つの不思議な流れが加わった感覚なのだ。

 

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世界にはいろんな人がいて
私の知らないところで、

今日も明日も生きてゆく。


不思議でたまらない感覚に、
マリファナのほろ苦い香りと、

焚き火の柔らかい温もりに包まれながら浸っている。

 

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カワウソの皮を剥いでゆく

とりあえず、

洗っていない手で作った料理を食べて、

人はどれくらいやっていけるのか。


−20度の中で洗顔すると、

女子大生の頰はどれくらい強くなるのか。


そういう実験も込めて、

あと12日

このリュービーで生きていきたい。

 

P:S あ、wifiは通っていました!

wifiは脳を破壊するって信じてるみたいだけど。