海と石けん。

アラスカの冬の

厳しく

暗い寒さを

足元でひたひたと感じながら

 

食器を洗う手のひらと

ちゃんちゃんこに隠れた

心があるらしいどこかの底は

なんだか

暖かかった。

 

f:id:miyamotomaho:20181224165659j:plain

世界の果ての海辺。

「幸せって何」

 

私が一生かけて探し続けたい

そんな問いを

不意に

お世話になってる友人のお母さんに

台所でなげたくなった。

 

お母さんは

ちょっとびっくりしたように

洗いかけのお鍋をおく。

 

 

「クリスチャンの目線から言うとね、

神様の御心に従って生きること、

神様が私に望むことを見つけて生きてゆくことが 

”幸せ” だと思うわ」

 

f:id:miyamotomaho:20181224165833j:plain

 

ブルーの星が散った瞳が

神様を思う優しさで

優しく、ほんのりと

染まった。

 

「でもね」

 

お母さんは、

ふと

私をじっと見た。

 

「自分の喜びだけを追求することが幸せだと言う人もいると思うの。

好きなものを食べて、

自分の好きなことだけをしてって。

でも結局それってね、やりすぎちゃうのよ」

 

そしてお母さんは、

ゆっくり

お湯に手を浸す。

 

 

「一番大切なことはね、与える者であることよ。」

 

f:id:miyamotomaho:20181224165917j:plain

宇宙が近い。

お母さんの巻き毛が

ゆらりと揺れて

その大きな瞳が

じんわり涙に染まっていた。

 

ホロコーストの生存者の方の本の中にね、こんな節があるのよ。

多くの者は、あの地獄から還ってこなかった。

なぜか。

それはその多くの者が、与えるものであったからだ。

自らが飢えてもなお、最後のパンの一欠片を、

他人に与える者であったからだ ” 

人はね、

どんな辛く、信じられないような地獄にいても、

人に与えることで神様の愛を感じることができるの。

そこから幸せの温もりを感じることができるのよ。」

 

 

大切なのは、

与える者であること。

f:id:miyamotomaho:20181224165956j:plain

造りかけの家。

 

アラスカの厳しい寒さと

夜のとばりがひっそり降りた

森の中の台所で。

 

もし

本当に神様というものがいるのなら

私の

なんだか荒んで

ひねくれた心を

諭そうとしてくれたのかもしれない。

 

ポロリと

なんだか熱いものが

頰を伝った時、

不意にそんな気がした。

f:id:miyamotomaho:20181224170038j:plain

お湯も水もアラスカ生まれ。

 

自分の口から出た、

醜く

酷い言葉たち。

 

みんな後悔を優しく抱いて

北の海を去っていく。

 

 

f:id:miyamotomaho:20181224170238j:plain

一つの波も凍って。

 

 

 

海の波の

ひとしずくさえ凍るアラスカの冬。

 

石けんの優しい泡が

ほんのり揺れていた。

 

そんな一日。